面白かった。
帯に「山本弘ワールド全開!」と書いてあるとおり、僕の頭の中にある「山本弘さんらしさ」を存分に詰め込んだ作品だった。
特に第二種永久機関装置「みらじぇね」のエピソードは最高だ。
アイドルのコンサートに行ったら、お土産として彼女が発明した小さな永久機関装置をもらえて、コンサートを楽しんだあと家でそれを動かしながら彼女に想いを馳せることができるのだ。
そんなアイドルがいたら、そりゃ夢中になるだろう。
ファンにお土産として配った理由は、それをそのまま「永久機関装置ができました」と発表したって世間に相手にされないからだ。
説明なしに受け取ったファンがその原理を解明して論文を発表するのを待つ、って寸法。
論文を書いた猪口裕人、いいよなあ。
コミケで自分のサークルスペースにアイドル本人が同人誌(論文)を買いに来てくれて、そのあと天才科学アイドルから最高級の「ご褒美」をもらうんだよ。
彼は、この作品内で唯一「ご褒美」をもらったキャラじゃないかな。
そりゃ悶絶するさ。
彼女の歌の一曲「ほんの62マイルが」もいい。
作中で詳しい歌詞や曲調は紹介されないけれど、曲に込められた想いは語られている。
一番グッとくる曲名だった。
さて。
この作品は、強烈な一文から始まる。
<ようこそ旧人類ども。>
なお、「旧人類」は「うすのろ」と読ませる。
天才理系アイドル・結城ぴあのは、自らを突然変異体(ミュータント)と称しているから、彼女を「新人類」と位置づけているのだと思う。
人の気持ちを理解できず、愛するという意味がわからない。
でもすごく頭がよくて、自宅のガレージで核融合実験をしたりする。
セックスには興味がないし、持つつもりもない。
(性欲があるかどうかについては、触れられなかった)
そんな彼女の相棒にして語り手の「すばる」は男の娘で、かなり特異なキャラだけど、ぴあのほど変わっている訳じゃない。
これは、新人類と旧人類の物語な訳だ。
『地球移動作戦』を読んだ人は物語のラストを知っている訳だけど、まあ一応ここでは書かない。
しかし、ぴあのは旧人類のことをどう思っていたのだろう。
この作品には愚かな旧人類がたくさん出てくるのだ。
それは彼女が目的を達成する最後まで立ちふさがる。
すばるは彼女の理解者だったけど、ラストに格好良く振る舞うことはできなかった。
作中で格好良く振る舞えたのは青梅秋穂ぐらいかな?
最初から最後まで格好いい旧人類は、いなかった。
ぴあのの旧人類に対する感想は
「やっぱりこんな程度か」
ぐらいだろうか。
「所詮こいつらは全員箪笥か」
だったら嫌だな。
ぴあのの最後の台詞は、彼女がすばるに譲歩したようにも感じた。
あれは成長なのか、堕落なのか。
新人類ぴあのにとって、旧人類すばるだけは、少し特別な存在であったと信じたい。
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