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2013年7月19日金曜日

『物語の器』としてのアニメと、アニメ化大賞

 僕は、物語の入れ物として最も優れている形式は、小説だと思っている。
 映画も悪くないんだけど、どうしても『詰め込める情報量が少ない』と感じてしまうのだ。
 押井守監督のように、暗喩などを用いて情報を詰め込むことも可能なのだが、大抵の視聴者はこれを読み解けない。
 『天使のたまご』を観れば解るのだけど、その内容を理解するのはとても難しい。アニメを観るのに『熟練の技』が必要となるのだ。

著者 :
ポニーキャニオン
発売日 : 2013-08-20

 『天使のたまご』では、無人の街にある魚の頭の形をした蛇口から溢れ出ている水を少女が器に酌んで回るシーンがあるのだが、それを観ていかがわしい連想をするのは難しいと思う。
 戦車の砲塔はあきらかにペニスであり男性の象徴。
 少女が食っている赤いジャムは月経――
 「いちいちそんな風にアニメを観ていられるか!」というのがほとんどの人の意見だと思う。
 まあそのへんは、絵コンテを読めばかなり理解が深まるので、興味のある方はそちらもどうぞ。
 そんなに深いテーマではない『天使のたまご』ですら、エンタメとしては楽しめない。
 かなり解りやすく、セリフで内容を全部説明してくれる『機動警察パトレイバー2』ですら、ほとんどの人が脱落するだろう。


 ンじゃあ、アニメに複雑なテーマの物語は向かないのか?
 映画でも難しいなら、TVアニメには未来永劫に不可能なのか?
 その苦悩を吹き飛ばした作品の一つが、神山健治監督の攻殻機動隊S.A.C.だろう。


 もう放送されたのはかなり昔なので、ネタバレを含んだ物語紹介をする。
 ご存知、攻殻の世界では人間の脳を機械化することに成功している。電脳化というやつだ。
 この技術が、新たな問題を生む。『電脳硬化症』という病気だ。
 電脳と生身の脳が繋がっているところが硬化してしまう病気で、電脳化している者なら誰でも患う可能性がある。
 治療法はないのか?
 ないこともない。マイクロマシンによる治療だ。
 しかし、このマイクロマシン治療、本当は効かないのだ。『今後マイクロマシン技術が発達していけば治せるだろう』という希望的観測の元、認可されているに過ぎない。
 そして、認可されていない治療に、普通のワクチン治療がある。こちらは、理由は解らないが(解明できていない)、効く。確かに効く。
 だが、このワクチンが認可されてしまえば、マイクロマシンによる治療は進歩しないだろう――
 そんな理由で、ワクチンは不認可となった。
 この事実を知り怒ったのが、電脳化しているハッカー・笑い男だ。
 彼は製薬会社やワクチンをなかったことにした体制に闘いを挑んでいく。

 というのが攻殻S.A.C.の大体の物語。難しいテーマだ。
 しかし、攻殻S.A.C.は、とんでもなく観やすい(楽しみやすい)アニメでもあった。
 最初、主人公たち公安9課の敵はハッカーだった。
 しかし物語が紐解けていくうちに、敵が変わっていく。
 人の視覚情報を盗み見する警察、厚生労働省、軍の秘密部隊……敵は次々とインフレを起こし、エンターテイメントとして加速していく。
 SF設定の説明も丁寧なので、今までSF作品に触れていなかった視聴者にも優しい。
 全26話という時間をかければ、ここまで複雑な物語もエンタメとして提供することが可能なのだ。

 この攻殻SACを観た時、僕が思ったのは「俺、いらへんやん」だ。
 これは漫画版『攻殻機動隊』や、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を観た時と同じ感想だ。
 これらの作品は、どう考えても僕が考え得る物語よりも面白く、テーマも深い。
 悔しいけれど、僕はアニメ業界に全く必要ない。むしろ邪魔だ。

 ってなことを思いながら、今、ポニーキャニオンさんの『アニメ化大賞』に応募する作品を書いている。
 「なにかアニメの発展に貢献することはできないか」と考えながら。

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