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2011年7月1日金曜日

『サマー/タイム/トラベラー』は未来を予見していたか?

 SFファンなら大抵は知っているであろう、新城カズマさんの名作小説『サマー/タイム/トラベラー』。
 ストーリーの感想は過去のブログにもちょっと書いたし、ネットのそこら中にあるのでここでは触れない。
 私はこの作品が大好きなのだけれど、ふと思い出したことがあったので書いておくことにする。

 この作品の中に登場する人物の一人・響子は、かなり変わった女の子である。
 お嬢様で、Amazonマニアで、文芸部の部誌に小論文を発表し、〈プロジェクト〉と称してみんなでミステリーサークルを作ったりしている。
 そんな彼女が作った一つの〈倶楽部〉。
 それは、誰かが自分を監視してくれる奇妙なネットサービスだ。
 そのサービスを通して、数々の人が自分を監視してくれることで安心する――そんな不気味なことをやっているのである。もちろん、彼女もその〈倶楽部〉の一員で、自分のプライバシーを公開しているし、他人を見てもいる。
 このプライバシーという概念を変えてしまうような世界は伊藤計劃さんの『ハーモニー』でも描かれているのだが、『サマー/タイム/トラベラー』の方が先である。
 これより前の未来像と言えば、ビッグ・ブラザーが国民を監視するようなディストピア物が多かった。

 しかしこのサービス、TwitterやmixiやFacebookなどに似てないだろうか?
 私的なことを簡単に全世界に発信する――プライバシーをさらす――ような未来社会を誰が想像しただろう。
 そういった点でも『サマー/タイム/トラベラー』は面白い小説だったなぁと思うのである。

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